「水の繋がり、人の繋がり」 小山田 準(おやまだ ひとし/NPO法人水環境ネット東北)

 棲み慣れた東京多摩地域を離れ、仙台へ移り住み1年と2ヶ月が経ちます。
 元々、盛岡の出身ということもあり、仙台の気候風土には何の違和感もなく溶け込み、日常的に飛び交う様々な東北弁に心地よさを感じている今日この頃です。
 多摩川でのNPO活動を経て、現在はNPO法人水環境ネット東北の職員として、東北地方をフィールドに海へ山へ、川へ街へと動き廻っています。
 この1年を振り返ると水の繋がりを背景に、多くの方々との出会いがありました。ここではその一部をご紹介致します。

○ 津軽海峡のこと
 「青森では津軽海峡のことを"しょっぱい川"と言うんだ。縄文時代、青森と北海道南部は一つの文化圏であり、舟で往来していたんだ」
 岩木川と地域づくりを考える会の古川政幸さん(59)は語る。
 カヌーイスト、鯨の調査員、料理人と様々な顔をもつ古川さんは復元された縄文舟で海峡越えを計画しているのだという。
  「すごいな、古川さん」と感心していたのが2002年3月、話しが二転三転しているうちに、いつのまにやら私も津軽海峡横断プロジェクトの漕ぎ手のメンバーに登録 されていた。
  6月に入り、地元の漁師、トライアスロンのアスリート、北海道大学の学生等が集まり、漕ぎ手のトレーニングが始まった。舟は5人乗りの杉材の小舟である。舟を見 たとたん、あまりの素朴な造りに「こりゃ死ぬな」と思った。まずは試乗、5人の息が合わないやら、真っ直ぐ進まないやら、散々なスタートであった。
小舟漕ぎし我ら

  6月19日(水)、本番である。午前5時に青森県大間港を出航、見送りの方々が大 勢集まり、大漁旗を振ってくれている。晴天、順風、波穏やか、最高のコンディショ ンである。直線距離で約17.5kmであるが、潮流に流されるため実際には約50数kmの行程を1チーム5名、5チームのローテーションで漕ぎ進む。伴走船として漁船や ヨットがサポートにあたってくれる。
  我々のチームは2番手である。潮の流れに乗るため西へと進路をとる。最も潮が速 い難所の手前まで漕いだ。その後、メンバーチェンジ、潮に乗っかり北東へ。順調に進み函館山が見えてきた。ここからが最後の踏ん張りどころであった。うねりが激しい。すでに数名が船酔いでダウン。最大の難所は北海道の若手漁師の精鋭が突破した。
北海道戸井漁港での出迎え

  午後2時頃、北海道戸井漁港に到着。約9時間の航海を終えた。多くの方々の歓声と拍手喝采で迎えられた。報道陣にも囲まれる。お祭り騒ぎであった。

  その夜、盛大なる歓迎会が開催された。我々漕ぎ手は一時のヒーローだった。若手漁師と飲み交わした。「地元に帰って街を歩けるよ」と彼は言う。確かにそうだった。成功すればヒーローで、失敗すれば単なる無謀者である。
   「もういいな」若手漁師の感想である。「もういいな」私の感想である。


○『マタギ』スピリット
  「マタギというと熊ばかりを追いかけて暮らしていると思われているけれど、そんなことはないよ。山菜や川魚等、あらゆる山の幸を生かして暮らしていますよ」
 青森県の西目屋マタギ、工藤光治さん(60)が話してくれた。
 マタギには千年以上の歴史があり、伝統を重んじた山の掟がある。 工藤さんの案内のもと、岩木川の源流を辿り白神山地へ入る機会に恵まれた。
 (社)日本河川協会「川の水源に登るサークル」の企画(2002年5月8〜10日、11 〜12日)と私が企画に関わった(NPO)水環境ネット東北の企画(2002年6月29〜 30日)である。
  工藤さんに教わる山の知恵はシンプルだが、奥が深い。
  「ワラビは手で折って採ります。2、3本生えていると必ず1本は残します」  
  「キノコはナイフで切って採ります。根元の部分を残すようにですね」
  マタギは森の恵を再生可能な自然資源として捉えてきた。近年、素人が山の中に入り込み、森の恵を根こそぎ採っていってしまうという。一度荒らされた森は簡単には再生しない。
  昼食時、工藤さんのお握りを見るとホオノキの葉で包まれていた。
 「葉っぱを採集して乾燥させておくんだよ。使うときには水に浸すと柔らかくなる。使った後は仮に山に置いてきてもゴミにはならないでしょ」
 街は便利なもので溢れているけれど、返って不便になっているのかもしれない。

  頭にタオル、背にザック、腰にナタ、足元は長靴、片手には杖、工藤さんは至って軽装で山奥へと入り込む。 「Simple is the best.」、『マタギ』スピリットを感じた。
「川のことを書くように」との編集部からの原稿依頼に対し、少し焦点を変えて「海 のこと」と「山のこと」を書いてみました。 天邪鬼のつもりで書いたのではなく、水環境の視点で観たときにやはり「川」とも大きく繋がるものだと思います。
  「いい川」の背景には「いい地域」があり、「魅力ある人々」がいます。
  「水の繋がり、人の繋がり」をこれからも大切にしていきたいと思います。
 次回は磯辺 信之さんです。

他己紹介:磯辺 信之さん
  「九州は佐賀にこの人あり」ということで、磯辺信之さんに次のコラムのバトンタッチをしたいと思います。磯辺さんには東北「川」ワークショップ、酒田大会、能代大会、福島大会と3大会連続でお世話になっており、合理的かつ柔軟な裏方進行の手腕には定評があります。次回は九州からの情報発信です。


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